ブルース・シュナイアーによる『暗号の秘密とウソ』に続く良書。同時多発テロでかつてない未曾有の恐怖を経験した米国が、そこから「恐れを乗り越えて」セキュリティというものを考えていくための手引きの本。しかし、誰が決めたのか知らないがこの邦題はひどすぎる(原題は『Beyond Fear-Thinking Sensibly about Security in an Uncertain World-』)。国内では先に刊行されている岡嶋裕史氏の『セキュリティはなぜ破られるのか』と酷似していて間違えやすい上に、筆者がこのタイトルに込めた信念を完全に無視している。マーケティング的にも何の意図も感じられないし、一体何をどう考えて決めたのかさっぱりわからない。
それはともかく。
この本では「セキュリティはトレードオフである」ということが一貫して述べられている。完璧なセキュリティなど存在しない。絶対的なセキュリティを求めると、極めて大きなコスト(金銭、時間、効率、あるいはプライバシーや自由の侵害など)を強いられることになる。恐怖に屈して完全無欠なセキュリティを求める弱い心は、いつの間にかトレードオフで大切な何かを犠牲にすることにつながってしまう。
安心感という感覚的なセキュリティではなく、実体的なセキュリティを考えよう。テロや凄惨な犯罪事件は人の恐怖心をかき立てるが、しかし実際の死亡リスクは、テロや犯罪よりも交通事故や日常的な事故の方が圧倒的に高い。自分にとって守るべきものは何であり、そのためにはどんなトレードオフを受け入れるか。変化し続ける世界の中で、日々理性的に考え続けていく必要があるのだろう。
第17章 セキュリティのベールをはがすより。
恐怖心は、無知と理解を分ける障壁である。身のすくむ障壁。すべて運命だとあきらめたくなる障壁。ばかなことをしてしまう障壁でもある。恐怖を乗り越えて進むとは、恐怖の束縛から知性を、常識を、想像力を解きはなつということだ。賢明なセキュリティを理解し、実現するという面でいえば、恐怖を乗り越えて進むとは、隠しだてせず、よく考えて、誠実にトレードオフを決めることを意味する。真のセキュリティは人の心にある。問題を想像し、予測し、解決しようとする心の中に。
日経BP社 (2007/02/15)
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リスク管理の検討には大いに参考になる
リスクと対策のバランスが肝要
セキュリティを分解して考える

